吉村堅樹:運動会、傍観者として

10月になったというのに随分と蚊が多い気がする。
僕の体に脂がまわっておいしくなったのか、
やたらぷっくり咬まれている。
会社にいても、家にいても、もちろん公園にいてもだ。


雨のため、土曜日から日曜日に延びた小学校の運動会で、
ひとり離れたところからぼんやりと子供たちの動くさまを
遠景として眺めていて、
とてもゆっくりとした時間を感じていることに気づいた。


子どもってけっこういるんだな、
昨日が中秋の名月だったからじゃないけど
子どもってうさぎみたいにぴょんぴょん跳ねてるんだな、
ほうほう、こんなにいろんなむしいるんだ。
やっぱりハチは8の字ダンスか、
アゲハはちょっと風に乗ってるなとか。
そんなこと考えてると、蚊がやってきて、
そっとたたくとめずらしくあたった。


ぴくぴくと腹を痙攣させていた。
もういちど軽くおすと動きが弱弱しくなって、
すこし間をおいてまたおすと、
掌の腹に生命の感触みたいなものを残して蚊は息絶えた。


森鴎外が傍観者ということをいっていたようだが、
どうも僕は今まで人生や生活といったようなものに
関与しようとしすぎたような気がする。
運動会を遠景で眺めていて、そんなことを思った。