三冊屋がいい

青山ブックセンター本店で『三冊屋ブックワークショップ』というのがある。
三冊を組みにし、
三冊に関係線をひき、
三冊で読む

広い青山ブックセンターの中、
渡された青い買い物カゴをさげて、
ぶらりぶらり、
どんな本でもその中に自由に放り込んでいい。
堂々たる万引き犯、
(もちろんこそこそリアルな万引き感覚でもいいが)
もしくはセレブな奥様、大人買いというやつか。
僕なんかは、長年の貧乏癖がたたって、
つい高そうな本から手にとってしまう。


どんな三冊にするか、
それはどんなでもいいのだ。
最初からこんなセットをつくると決めてもいいだろう、
テーマがあってもいい、
でもなんにもなくてもいい。
僕は方針は決めたくなかった。
そのときの気分に寄り添いたかった。
敢えていうならば、その瞬間のからだに忠実でいてみようと。
そんな遊びができるのも三冊屋。


つぎつぎにカゴにいれたりだしたり、
棚からとったり戻したりしながら、
最終的につくったのがこれ。

【1冊目】
○書名:『悪魔の涎・追い求める男』
○著者名:フリオ・コルタサル 訳:木村榮一
○出版社名:岩波文庫


【2冊目】
○書名:『ATG映画を読む』
○著者名:佐藤忠男
○出版社名:フィルムアート社


【3冊目】
○書名:『軍艦アパート』
○著者名:山下豊
○出版社名:冬青社

どれもまったく読んだことはない。


三冊屋はこれで終わりではない。
このあと、その三冊のタイトル、キャッチ、選んだ理由を書いていく。
それを師範の森山さんといっしょにメールのやりとりで磨きあげていく。
これがいい。
案配がいいというのか、まさに
「師匠は釣鐘のごとし、弟子は撞木のごとし」といった感じなのだ。
彼女は決して「こうしてみてください」とはもちろん、
「こうではないですか?」ともいわない。
「こうしても面白そう」というだけなのだ。
なんだか肩透かしを喰らったような気分だが、
じゃあちょっとその面白そうというのを試しにやってみるかと
腰をあげて手をつけてみると、
じんわりその面白さが滲んでくる。

できあがったのはそしてこれ、

■組み合わせタイトル
失踪へのいざない


■総合キャッチコピー
トンネルを抜けると、この小道を入ると、どこに行くの
だろうか?


■この三冊を選んだ理由
暗闇の中に体を滑りこませ、陽炎が白くゆれる向こうへ。
その先の裂け目からはどんな景色が見えるだろう。
そこでは透明な翅の蝉が鳴いているのだろうか。
それとも日傘をさした女が立っているのだろうか。
さっきみた映画の記憶のように、アパートの前では桜が
咲き乱れ、おとこたちは酒をあふれるままに飲みほして
いるかもしれない。日常と妄想の境を限りなく曖昧にし
たそのサキの世界へのいざない。


そのほかにも読書や書籍に関した
いろいろ趣向をこらした遊びやらお役立ちが待っている。
どうやら10月はもう始まったみたいだが、
11月はこれからのようだ。
ん?なんだこりゃと思った人は是非。
本を見る目と読み方に、新たな方法が加わることは間違いない。