『寛容力』寛容?いやいやそれだけじゃない

アジアシリーズ真っ只中、今が旬のビジネス書といえばこれでしょ?
『寛容力』渡辺久信


いわずとしれた今年の日本一監督、渡辺久信が書いた本。
え?野球の監督が書いた本でしょ?と侮るなかれ。
彼がプロ野球入団から自由契約、ヤクルト移籍も引退。
台湾に渡って投手をしながらコーチもやり、紆余曲折のあと西武監督に就任するという
エピソードだけではない。


西武ライオンズの優勝は必然であるという証明はもちろん、
多くのビジネス書がうまく伝え切れていない指導者の必要条件が書かれている。


それは一言でいえてしまう。
爽快力
指導者が、選手や部下にSMARTでゴールをつくろうとはよく言う話だ。
しかし、それだけでは選手や部下は動かない。
なぜなら、彼らにはそのゴールが爽快なもの、
ゴールを達成することによってどんなに気持ちいいのかということが
イメージできていないからだ。


久信はそのゴールとゴールにいたるプロセスの間に、
ゴールに対しては動機付け、
プロセスに対してはライバル、遊び、メリハリ、アーリーワークという形で
爽快力をプラスした。
気持ち良いんだったら、そりゃみんな続けるし、目指すだろうということだ。


寛容力については、
本書の中で忘れられないエピソードとしてしっかりと描かれている。
近鉄との優勝のかかったダブルヘッダー
あの忌まわしきブライアント4連発だ。
当時の久信は西武のエース。
近鉄との第1戦で郭泰源が2連発をあび、
5点差を同点にされたブラインアントの第3打席、
久信がリリーフに。
シーズンでブライアントに打たれたことがない内角高めの速球、
その完璧なボールを久信はスタンドに叩き込まれた。
そして西武は負けたのである。


交代を告げられた久信は、ベンチ裏に下がった。
それを血相を変えた森監督がベンチ裏に追っかけてきて一言。
「なんでフォークを投げないんだ!」


確かにフォークを投げれば打ち取れたかもしれないが、
久信の最高のボール。
それを打たれたわけだ。
そのときに久信は
結果論で選手を絶対に叱るようなことはすまいと誓ったということだ。
そのとき久信の寛容力は生まれたのであった。