『コロッサル・ユース』ペドロ・コスタとの出会い

kenjuman2008-07-03

妻がでていった。家から家財道具一切を投げ出して。ナイフで刺された傷は深くなかったが、一張羅の入っていたスーツケースも持っていってしまった。

暗く静かな画面にBGMはない。ヴェントゥーラは子供たちのもとを訪れ、子供たちの話を聞き、ときには熱く話をする。

「愛しき妻へ 今度会えれば30年は幸せに暮らせるだろう。お前のそばにいれば力も湧いてくる。土産は10万本のタバコと流行のドレスを10着あまり、車も1台。お前が夢見る溶岩の家、心ばかりの花束 いやそんなことより 赤ワインを飲みながら僕のことを思い出してくれ・・・愛する妻よ、俺の手紙は着いたか?お前の返事はまだ来ないが、そのうち届くだろう・・・」

子供は5人から6人はいただろうか?それぞれを何度も何度もたずねるのだ。
ヴェントゥーラがレントに教える詩、美しい詩だと思う。

僕が童貞ならばこううたうだろう。
「愛しきまだ見ぬ人へ 僕と知り会えば3年は幸せに暮らせるだろう。たった3年なのだが。まだ見ぬ君のそばにいれば力が湧いてくると思う。仕事はないが昼のバイトと夜のバイトを掛け持ちをして、毎日君に花をプレゼントすることは約束する。いやそれよりも、まだ見ぬ人は僕を愛してくれるだろうか・・・愛するまだ見ぬ人よ、あなたの姿はまだ見たことはないが、もし君があらわれなくても、僕は君のためにうたをうたうだろう・・・」

映画館をでると、すでに日はおちて心地よい風が吹いていた。ヴェントゥーラの足取りとシンクロしたように足取りは心地よく、体に余韻は残った。その日、渋谷駅で触れた男の指はこの上なく温かいものだった。