夢一夜

二つ夢を見たのだが、ひとつしか覚えていない。
夢は書き取ろうといつも思うのだが、
書き取っているうちに目がはっきりくっきり覚めてしまい、
書き取った後には寝ようにも寝られないのがちと辛い。


こんな夢をみた。
グループが暴力団に襲撃をされた。
あたりは慌しくなった。
空港の廊下のような場所には大きな窓ガラスの破片が散乱し、
倒れている人もいるのだろうが、
やや興奮しつつも冷静な心持であるのが自分でも不思議だ。
マシンガンを手にしているからだろうか。
ときどき気が向いたようにバババと撃ってみる。


それでもなんだかひとりでマシンガンは心もとない。
そう思えてきたら急に不安になった。
最後に何発かまたバババと打って、
自分から警察の護送車に乗り込んだ。
これでしばしの休息とほっと一息ついたが、
着いたらもう落ち着いたから帰りなさいという。
ああ、そうですかと拍子抜けした格好であったが、
預けておいたマシンガンを返してもらって軽く右肩に乗せながら、
渡り鳥きどりで帰る。
マシンガンを抱いた渡り鳥。


帰ってみると、いやまだ物騒なようす。
仲間が集まっているところにもどったのだが、
ここの集まりがどうも偽善的で馴染めない。
いや偽善的というのは違う。
無理に元気な虚勢をはるといえばいいのだろうか。
不安は不安であることをそのまま出されるのも辟易するが、
不安がないかのように振舞う白々しさには浮ついたものを感じる。
仲間の中心の男が一体感を出そうとしているのはわかる。
女たちは上気した顔をして男の顔をうっとりと眺めている。


テレビのワイドショーでは、
前の会社の人たちが暴力団の報復攻撃をうけたらしく、インタビューに答えている。
いまはすっかり仕事を変えて中華料理を経営していらっしゃる。
赤のカウンターだけだがフロアの3辺をカウンターで囲った形のオープンキッチン、
墨書きでかかれた品目がカウンターの前の上壁に斜めに傾けながら貼ってある。
店の前で社長や部長ら4人が、
それぞれマイクを持ちながら花いちもんめと横に並びながら
インタビュアーにつめよっている。
インタビュアーとインタビュイーがこれで公平も、
数の原理でいたしかたなし。
インタビュアーは後ずさり、それをカメラもドリーで追っていく。


僕はロケットランチャー担当になった。
ベージュ色のロケットランチャーの弾は、
さきっぽがいちごをさかさまにしたような形で大きく、
それにひょろひょろと尻尾がついている。
それをスパッと半分に切った平らなほうには
使用前のビニールがついている。
冷えぴたシートのように使う前にはがすのだろう。
ポケットにいれておいたら、少しビニールがはがれてきてしまったが
まあ構わないだろう。


ランチャーをもちながら窓のほうや地下鉄の入り口を気にしていると、
息せき切って女が地下鉄の階段をのぼってやってきた。
ちょっとはすっぱな感じがする女で、
普段は仲間とはなじんでいない。
女ははいってくるなりまわりの女どもに大げさに抱きついたりして、
「ああ、よかった。無事だったんだねえ」なんていいながら、
ことさらに感激を表現しながら両手で飛び掛るように抱きついている。
今がチャンスと、女はハッスル。
周りは困惑しつつも、こんなときだしと受け入れる。
女は何かにつまづいたか、ハイヒールがくじいたかして、
おっとと横すわりに倒れこんだ。
そのとき辛子色のタイトなスカートの足元が乱れて、下着が見えた。
女は軽く蔑むような厳しい視線を僕に送った。
刹那目があったが、さっと目を逸らした。
視線は僕の中に残った。
女はわざと転んだのだ。


襲撃されたらランチャーは正当防衛になるのだろうか。
気づいたときにはまた混乱に巻き込まれていたのだが、
そんなことを考えて、まだランチャーは撃てずにいた。
やはりちょっとこれは撃てないな。
また警察に保護してもらおうとランチャーの弾はポケットにいれて護送車に向かった。
ビニールはもうすっかり外れていた。


釈放されたら、ランチャーを返してもらった。
ランチャーをもった渡り鳥。
弾はポケットにいれた。
もどってきたら、組には親分がいて、子分もほとんどあつまっていた。
遅くなったが特に悪びれもせず親分の横にすわった。
着いて五分後には最後の子分がやってきたのだが、
そいつがよさげな白ワインを買ってもってきた。
こんなときは何か持ってくるべきだったのかとしまったなと思ったが、
そのうち何も買ってこなかったことはみんな忘れるだろう。


親分はこんなときだというのに、昔話に花を咲かせていらっしゃる。
ふすまがすっと開き、言伝のものが
「誰も通すなということでしたが、あのう、いらっしゃいました」
「いらっしゃったのなら入ってもらえ」
おう、と声がして自民党の三塚さんが入ってきた。
正確には三塚さんに似たような人かもしれない。
「お前悪さしたなあ。
兄弟の杯かわしたいうたかて、それはあかんで。
兄弟なんてのは一言でいつだって反故にできるんや。
酒もってこさせてこんなところで酒飲んでいる場合か。どないするんや」
と詰め寄る。
どうやら政治家、黒幕、フィクサーそういったやつだ。
親分は黙っていた。
考えていた。
つと親分はみなが囲む卓の上に四つんばいになって上り、
斜めに横切ると水屋の中をかきまわしはじめた。
親分は匕首を持ってきてひとりの子分の前にぽんと置いた。


「へ!こ、これでエンコをっ」
その子分はうろたえた。
僕は次は自分かと内心少しうろたえていた。
「違う。わしが切るんや!」
「そや!それがいちばんええ」三塚さんはわが意を得たりといった表情だ。
ああ、見たくない、一番近くにいるから汚れるかもしれない。
血がかかるかもしれない。
ほこりが赤いかわいた模様が。


さっと席を外した。
戻ってきたら、死んでいなくなっていた。
それと一緒に僕のもちものがなくなっていた。
なんだろうと思っていたら、思い出した。
ロケットランチャーの弾だ。
お別れ代わりにお棺にいれたらしい。
そういえばこの弾、なんだか精子みたいな形しているなあ。
そんなことを考えていた。