文体練習1

1.メモ
水曜日の夕方。
Sの映画館、館内はまばら。
映画通をきどっていると思われる30代らしき男3人が、
後方3列目から前のほうへ順に列の真ん中あたりで、
お互いの頭が画面を遮らないように交互に腰をかける。
男たちは同時に入ってきたものの、顔見知りではないらしく
特に言葉を交わすわけではない。
館内にはブリジット・フォンテーヌのような囁きに近い歌声が流れている。
赤いシート。左に3つ、右に3つのスピーカー。
各々がチラシやパンフレットに熱心に目を配っている。
「すみません、となりあいていますか」と声をかけられた人が
軽い会釈をして、コートをひざの上に置く。


2.複式記述
週の真ん中の水曜日の日暮れ時の夕方。
シネマ映画通でマニアを自称きどっていると想像されおもわれる
三十路で30代らしき牡の男3人トリオが、
うしろの後方3列目から後ろではなく前のほうへ規則的に順に列の中央真ん中あたりで、
それぞれのお互いの首から上頭がスクリーンと画面を邪魔にしたり遮らないように
たがいちがい交互に座って腰をかける。
男性の男たちは一緒で同時に入って入場してきたものの、
知り合いでも顔見知りでもないらしく、
特に会話したり言葉を交わすわけではない。
館内と場内にはブルターニュ地域圏のフィニステール県モルレーの出身でフランスのアヴァンギャルド・ミュージックの歌手ブリジット・フォンテーヌのような
つぶやきや囁きに似ていて近い歌声がかかって流れている。
真紅の赤い椅子シート。右でなく左に3個みっつ、左でなく右に3個みっつの音声発声装置スピーカー。
それぞれ各々が映画広告のチラシや小冊子のパンフレットに集中して熱心に目を配り見ている。
「すみませんごめんなさい、となり、横誰も座っていなくてあいていますか」と声をかけられ話しかけられた人が
小さく挨拶をして軽い会釈をして、外套のコートを太もも下方ひざの上にのせて置く。


3.控えめに
確か、週の真ん中の夜になる少し前だったと思うのです。
映画に精通しておいでだと思われるお若い男性3名が、
お互いご友人でもいらっしゃらないと思われるのに、
礼儀正しくお互いの体で邪魔になられないように配慮され
後ろの3列目のほうからお座りになられました。
映画館の中ではフランスの女性歌手でしょうか、
わかりかねますが耳元で囁かれるような音楽が流れておりました。
館内を見渡せば、赤いお椅子と左側と右側に3つのスピーカーがございました。
みなさん熱心に映画の資料をご覧になっていらっしゃいます。
ご丁寧に席の確認をされたかたに、軽く会釈をされ、
コートをおひざの上におかれました。


4.隠喩を用いて
7つの星の真ん中の日、空が朱から灰に変わるころ。
銀飾幕の賢人よろしく入場口から兵隊3名行進。
後ろから前へずらして1・2・3着席、よし。
沈黙は金なり。互いに見ざる聞かざる言わざる。


セーヌのたそがれ、モンマルトル。
シガーの煙のささやきか。


ずらりと血まみれ電気椅子
右に左に拡声器。
強迫観念にかられた資本主義の申し子たちは
じろりと血まなこ無我夢中。


空所はいかなる神の磐座かと問われたまろびと、
あとずさりしつつ、自らのものとばかりに衣をかきあつめる。


5.遡行
軽い会釈をして、コートをひざの上に置いたのは、
「すみません、となりあいていますか」と声をかけられた人です。
各々がチラシやパンフレットに熱心に目を配っています。
赤いシート。左に3つ、右に3つのスピーカー。
館内にはブリジット・フォンテーヌのような囁きに近い歌声が流れている。
顔見知りでなく、特に言葉を交わすでもない男たちは
お互いの頭が画面を遮らないように交互に腰をかけています。
座っているのは後方3列目から前のほうへ順に列の真ん中あたりです。
3人の男は同時にはいってきたのですが、
映画通をきどっていて、30代らしい。
そう、ここはSの映画館ですが、館内はまばらです。
水曜日の夕方でした。