無題

東京も寒くなってきた。
朝出かけるときに知らず知らずこぶしに力をいれて
歩いている自分に気づく。
斜め上方を見上げると、
紅葉のあいだからもれる朝日があまりに神々しい。
こんな朝を満喫しないのはもったいないと、
ゆっくりと掌をひろげると自然と口元には笑みが浮かぶ。


こんなところに鳥の巣箱があったのか。
気づかなかった。


昨日は誕生日で、
いままでにないくらい多くの人からお祝いのメッセージをいただいた。
そのひとつひとつが僕にとって、
勇気、
謙虚、
感謝、
愛、
そんな気持ちにしてくれる言葉でした。
何度も何度も読み返し、
うれしくなると同時に気がひきしまる思いもしました。


以前にも書いたことなのですが、
僕の大学時代の師匠ともよべる先輩が、
京都の北で農業をやっています。


二十歳のころのことです。
僕は我の強い男で、
とげとげしている人間でした。
それがいろんな人と会い、
苦々しい体験を多くすることで、
人の優しさにふとしたことで気づくようになってきました。


あるとき、何人かで酒を昼間から飲んでたときだったでしょうか。
その時間が楽しくて、あまりに楽しくてつい
「僕ね、人のことをなかなか好きになれなかったんですけど、
やっとひとのことをすきになることができるようになってきました」
そう言ったんです。
そしたら、その先輩は
「そうやな、なんでそんな簡単なことみんなわからへんねやろ」
って涙を流しながら言いました。


僕はいまだにそのことが忘れられないのです。
僕と先輩の会話はかみあっているわけではないのですが、
いちばんぴったりくることばでした。


いまだにそんな簡単なこともわからへん人間ですが、
すこしずつすこしずつそんな簡単なことがわかって、
そんな簡単なことができる人間になっていけているように思います。


サンキュー39さい
吉村 堅樹