サクリファイス、いささか感傷的ともいえる

寒さがこたえる季節になってきた。
この季節になると赤い光を思い出す。
ぼやっとしたにじんだ視界の中に光る赤だ。


テールランプ、ゆるやかな稜線を思わせる弧をえがきながら遠ざかる
非常灯、点滅する光、明滅する光、しましまか?
LEDの指示棒、リズムもきざめない


いくつもの職種を経験したが、
3度もしてしまったのはこれだけで、
僕の怠惰がなせるわざだともいえるし、
積極的に受動的な人生を選んできた結果ともいえる。


最初は20歳で成増にすんでいたとき、
身分証がないのと風貌があやしいのとで、
コンビニのレジうちもさせてもらえなかった。
そんな僕でも雇ってもらえる職業があった。
それがガードマンだ。


3ヶ月ほどやって大阪に逆戻り。
戻ってきてからも大学の寮に戻るのは、
いばって上京しただけに、素直には戻れない。
大阪でもガードマンを続けた。


最後は5年前、東京に助監督をしに上京したとき
やっぱり仕事がなく、これだけはやめようと思ったにもかかわらず
ガードマンになっていた。


唐突ではあるが、
「ガードマンは現代の埴輪である」


1月真夜中の大井町りんかい線開通工事現場。
丑三つ時をすぎると酔っ払いはもちろん、犬も通らない。
体を動かす現場の人がうらやましく思えたものだ。
人も通らないのだから、指示棒も振れない。
建造物の間からふきこむ冷気が容赦なく体温を奪っていく。
道路に水がまかれると、そのまま
チューブからひねり出した絵の具のように凍る。
あと何分、あと何時間たてば休憩なのだろう。
あたたか〜いコーヒーが飲みたい。
砂糖がいっぱいはいったやつ。
なんでおれ杏里とか歌ってんだろ。
頭の中で歌う歌をさがすのも億劫になってきた。


思考能力は奪われて、
ただただ純粋に時間を切り売りしていく。
高層建造物に囲まれた都会の陵墓で、
脳死状態の僕と彼らは、
いまを象徴する生け贄なのだと思った。
何ヶ月かいるとわかる。
だんだんみんな神様みたいになってくる。
現代の聖なる負の象徴は
今日も僕やあなたのかわりに自らの身体で墓標を刻む。